プリント基板総合メーカー|RITAエレクトロニクス株式会社 > 技術資料 > プリント配線の曲げが伝送特性に及ぼす影響
1. はじめに
高速信号伝送において、プリント配線の曲げは、インピーダンス・ミスマッチの原因となるため、波形品質に悪影響を与えるといわれている。しかし、曲げ形状と伝送特性の関係を実験した例は少ない。我々は、プリント配線の曲げが伝送特性に及ぼす影響を明らかにするため、プリント配線板のマイクロストリップにて、曲げ角度と R を変化させた仕様を製作して、これらの伝送特性を評価したので、結果を報告する。
2. 試作回路
テスト基板の概要を図1に示す。板厚1.6mm、一般的なFR-4材料を用いたプリント配線板に、150mmのマイクロストリップを配置した。この中点に 45、90、135度の曲げを形成した。ここで、曲げの丸みは、内Rで0、0.3、1mmの3種類とした。図2は曲げ部分の拡大図である。配線の両端には、信号入出力用に、SMAレセプタクルを実装した。
これらマイクロストリップは誘電体厚み0.5mmでソルダレジスト被覆無し、線幅0.92mmにて特性インピーダンスを50Ωにコントロールした。
図1 テスト基板の模式図(SMAコネクタ間の配線長は 150mm)
図2 曲げ部分の拡大図(曲げ角度90°の場合)
3. 実験結果と考察
伝送特性は、TDR とネットワークアナライザーで評価した。
3.1 特性インピーダンス
まず、90度曲げ・R=0 の TDR を図2に示す。曲げた部分で特性インピーダンスが低下している事が分かる。ここで、SMAコネクタ実装部位に対応する画面両端にて、特性インピーダンスは50Ω±2Ωの範囲で変動しており、これは90度曲げ部分における低下量と同等となっていた。
図3 90度曲げ・R=0のTDR(終端はオープン)
ここで、曲げの丸みは無し(すなわち R=0)で、配線を45、90、135度曲げた場合における、配線領域のTDRを図4に示す。配線の曲げが大きくなるほど特性インピーダンスは下がり、135度曲げた場合は50Ωから7Ω低下して43Ωになった。
図4 R=0における曲げ角度と特性インピーダンス
図5は曲げ角度は90度で一定のもと、丸みを内Rで0、0.3、1mmと変化させたときの配線領域のTDRである。R=0の場合は曲げ部分が48Ωであるのに対し、R=0.3mmの場合はほとんど変化無し、R=1mmにすることで49Ωになった。
図5 90度曲げにおける丸みと特性インピーダンス
3.2 Sパラメーター
曲げの丸みは無しで、配線を45、90、135度曲げた場合のS21を図6に示す。曲げ角度が90度までのS21は直線の場合と同等だが、135度曲げた場合は周期的に損失が生じていた。
図6 R=0における曲げ角度とS21
135度曲げのS21における損失の周期は約1.2GHzであるが、これは実効比誘電率を3としたとき、75mmの配線長が半波長に一致する周波数であり、SMAコネクタ実装部位-曲げ部分間の距離に対応している。
S21損失が比較的明らかな4.7GHzにおいて、丸み毎に曲げ角度を変化させたときにS21をプロットしたものが図7である。135度曲げた場合でも、R を1.0mmとすればS21損失は低減できる事が分かる。
図7 丸み毎の曲げ角度とS21の関係
3.3 結果
誘電体厚みが0.5mmの150mm長・50Ωマイクロストリップ線路において、中点の曲げ角度を45、90、135度、これらの丸みを内Rで 0、0.3、1mmとした基板を製作し、特性インピーダンスとSパラメーターを測定した。結果、曲げ角度135度の場合は特性インピーダンスが7Ω低下し、また周期的な透過損失が生じることが分かった。
4.結論
曲げ部分の等価回路を図8に示す。曲げ部分は特性インピーダンス50Ω配線にコンデンサを付与したものと考える。
図8 曲げ部分の等価回路
ここで R=0,曲げ角度が135度の場合の評価についてコンデンサの静電容量を下記2式を用いて求める。
いずれの式でもC=0.36(pF)が求まる。同様に曲げ90、45度について静電容量を求めた結果を図9に示す。
図9 配線曲げと静電容量
曲げ形状と静電容量の関係を明らかにする事で曲げを含むパターンの設計を行うときのノウハウを得る事ができる。
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