技術資料

部品実装部位の特性インピーダンスコントロール手法の検討

1. はじめに

電子機器において、信号伝送の高速化にともない、プリント基板の特性インピーダンスコントロールが求められるようになってから10年以上が経過した。そして、10Gbps以上の高速伝送が実用化されている現在、プリント基板においては配線だけでなく、スルーホールについても特性インピーダンスコントロールが望まれるようになった。このスルーホールにおけるインピーダンスコントロール設計手法は既に提案した 1)

高速信号の伝播経路としては配線、スルーホールだけでなく、部品実装部位がある。一般に、表面実装部品のフットプリントは配線よりも太いため、その部位の特性インピーダンスは低下する。

今回、部品実装部位の特性インピーダンスコントロール手法の確立を目的として表面実装用コネクタのフットプリント直下の内層プレーンに抜きを設けた基板を作成し、その特性インピーダンスを測定して任意のインピーダンスを得るための手法を検討した。この内層プレーンを抜く手法の弊害として、発生するノイズについても実測した。

2. 実験

評価試料としては表面実装型コネクタを用い、評価用基板を作成した。部品実装部位における伝送特性の改善を検討するため、評価パターンとして部品実装用パッド直下の内層プレーンに抜きを設けたものも用意した。これらを対象として、信号伝送特性および近傍磁界強度を測定した。
コネクタとしては、表面実装型のシリアルATA用(本多通信工業(株)HAS-S7LMYG)を用いた。評価用基板はシングル部(シングルエンド・インピーダンス50Ω)の配線長が13mm、差動ペア部(差動インピーダンス 100Ω)のそれが27mmである。また、基板厚みは1.6mm、4層板である。実際に評価に用いたパターンを図1に示す。

 

図1 評価基板の導体パターン(第1層)

図1 評価基板の導体パターン(第1層)

 

実験に用いた基板の部品実装部位の模式図を図2に示す。

 

図2 評価基板のコネクタ実装部位の模式図

図2 評価基板のコネクタ実装部位の模式図

 

これらは、(a)内層がべたプレーンの場合、(b)内層プレーンに抜き(パッド寸法+0.1mm(4辺すべて) を設けた場合である。内層プレーンに抜きを設けたのは部品実装部位での特性インピーダンスの低下を抑制するためである。

これら2種類の基板について、伝送特性としてTDRとSパラメーター、放射ノイズとして近傍磁界強度を測定し、部品実装部位変更の効果を検討した。

3. 結果

3.1 伝送特性

2つの評価基板を50cmのシルアルATAケーブルで接続させた状態でTDRを測定した。結果を図3に示す。

 

図3 コネクタ実装部のTDR

図3 コネクタ実装部のTDR

 

実装パッド直下に内層プレーンが存在する場合、パッド部で特性インピーダンスが低下した(Zdiff 73Ω)。
一方、内層プレーンに抜きを設けた場合、実装部位の差動インピーダンスは増加し、112Ωとなった。また、実装部位の設計状態によらずコネクタ内部において差動インピーダンスは110~115Ωとなった。
また、TDR測定時と同じ状態でネットワーク特性を測定した。その結果を図4に示す。

 

図4 反射・伝送損失測定結果

図4 反射・伝送損失測定結果

 

内層プレーンに抜きを設けた場合、抜きが無い場合に比べて特に5GHz以上の周波数帯域において伝送特性が良くなる傾向が観測された。

 

3.2 近傍磁界強度

近傍磁界強度評価基板同士を前述のケーブルで接続し、片方から3Gbpsの擬似ランダムパターン(27-1)を入力し、他方を50Ωで終端した状態で、評価基板表面から10mmの高さにおける近傍磁界強度を測定した結果を図5に示す。

 

図5 コネクタ近傍の磁界強度(周波数1.5GHz)

図5 コネクタ近傍の磁界強度(周波数1.5GHz)

 

1.5GHz周辺の近傍磁界測定では、内層プレーンに抜きを設けた場合、プレーンに抜きがない場合と比較して高い磁界強度が観測された。

4. 考察

内層プレーンが存在する場合の実装部位での特性インピーダンス低下は、差動インピーダンス100Ωコントロールの信号配線幅よりもパッド部位の幅が太いため、および、パッド部でのリード実装部よりもコネクタ側に入っている部分(スタブ)に起因する負荷容量のためと考えられる。

一方、内層プレーンに抜きを設けるとコネクタリードのインダクタンス成分が支配的になったため、特性インピーダンスが上昇したと考えられる。

また、近傍磁界測定結果からは内層プレーンに抜きがなくリターン電流経路が十分に確保されている場合に比して、内層プレーンに抜きを設けるとリターン電流経路が長くなり、このリターン電流経路長の増加が近傍磁界強度の増加の原因になったと考えることができる。また、内層プレーンの抜き面積をさらに大きくすると、その部位の近傍磁界強度が増加することを確認している。

5. まとめ

部品実装部位において、配線パターン幅よりもパッドの幅が広くなると、その特性インピーダンスは局所的に低下すること、およびこの対策として実装パッド直下の内層プレーンに抜きを設けると、特性インピーダンスの低下を抑制できることを確認した。そして、実装部での局所的なインピーダンス低下を避けることで高周波帯域における伝送特性の劣化を低減させることができることを実験的に確認できた。しかし、内層プレーンに抜きを設けると近傍磁界強度が増加した。

今後、部品実装部位の特性インピーダンス制御のため内層べたプレーンの抜き方の最適化手法を検討すると共に、遠方界ノイズへの影響を検討する予定である。

6. 謝辞

本実験にあたりコネクタを提供して頂きました本多通信工業株式会社 大西浩司様にお礼申し上げます。

 

参考文献

1)池田聡、東浦健一、田中顕裕:スルーホールのインピーダンス制御設計手法の開発、第20回エレクトロニクス実装学会講演大会論文集、pp.117-118、2006

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