プリント基板総合メーカー|RITAエレクトロニクス株式会社 > 技術資料 > プリント配線板における高速シリアル伝送の注意点
1.はじめに
高速シリアル伝送は下記のように様々な規格が存在しています。
それぞれ個別の注意点等もあるでしょうが、ここではそれら全てに該当するプリント配線板における高速シリアル伝送の注意点について説明致します。
高速シリアル伝送例
・10ギガビット・イーサネット(XAUIおよびXSBI)
・SONET/SDH
・ギガビット・イーサネット
・InfiniBand
・RapidIO
・PCI Express
・Fibre Channel
2.パターン設計
2-1.特性インピーダンスコントロール
ここでは高速信号における特性インピーダンスコントロールの必要性を簡単に説明します。
一般的に高速信号を伝送する際は、インピーダンスが一様でないと、その変化するポイントで高速信号の反射が生じます。反対にインピーダンスが等しいければ反射はしません。
さて、反射の大きさですが、これはインピーダンスの変化に対してスライドのような(1)計算式で表されます。また、透過する電位も同様に(2)計算式をご覧下さい。
さて、このスライドでは、プリント配線板での配線の構造と特性インピーダンスの計算式を表しています。
プリント配線板の外層配線であるマイクロストリップラインと内層配線であるストリップラインについて一本の信号線で伝達するシングルエンド配線の場合と近接したペア配線に逆位相の信号を伝達する差動配線についてです。
高速シリアル伝送は様々なメリットから差動配線を用いられています。
ここで注意したいのが、計算式(理論式)で求めた特性インピーダンスは実際に製作したプリント配線板を測定した特性インピーダンスと必ずしも一致はしないという事です。
この理由は次スライドで説明します。
これは、配線の断面図です。
実際のプリント配線板は配線はエッチング加工によりやや台形となります。
絶縁層である誘電体の比誘電率は、使う材料の厚さでガラスクロスとエポキシ樹脂の比率が違うので、層構成によって違いが生じます。
また、外層配線(マイクロストリップライン)の場合、一般的には配線上にソルダレジストが塗布されるます。このソルダレジストも比誘電率が1では無い為、実効比誘電率に影響を与えます。
特性インピーダンスの変動要素には、他に導体厚みが含まれています。
基板メーカーの製造プロセスが、各々のファクターに影響を与えるので計算で求めた特性インピーダンスと実際作成したプリント配線板を実測した特性インピーダンスは違いがあります。
基板材料によっては、比誘電率や伝送損失に影響を与える誘電正接が周波数や温度に対して依存性をもっているものもあります。
差動インピーダンスの定義を説明します。
2本の線路を伝播する信号のモードとしては、逆相のオッドモードと、同相のイーブンモードがあります。
オッドモードが、高速シリアル信号で一般に使われています。
差動インピーダンスは、高速シリアル信号で一般的なオッドモード伝送した場合の特性インピーダンスです。
差動伝送(オッドモード伝送)のメリットは、2本の平行な配線で異なる極性の信号を伝送する事で①各々の配線に発生する電磁界が打ち消され、高速信号から発生する放射ノイズを低減する。
②受信部(レシーバー)では入力される2信号の差分から“Hi”,”Low”を認識するが、2本の高速信号が外来ノイズの影響を受けたとしても、差を見る事で“Hi” ,”Low”の判定には影響を与えない。
その為、低電圧で高速な信号伝送が可能となる。
といったものです。
高速伝送における伝送モードと特性インピーダンスの関係です。
インピーダンスに関する2×2のマトリックスがありますが、これは、インピーダンス・マトリックスと呼ばれ、電磁界解析で解くことができます。
配線単体でのシングル・インピーダンスと配線間のカップリングモードインピーダンスの差がオッドモード・インピーダンスで、この2倍が、差動インピーダンスです。
もう一つの側面として、コモンモード・インピーダンスがあります。
コモンモードインピーダンスは前スライドのイーブンモード伝送実施時の特性インピーダンスです。
差動とコモンモードの積の平方根がシングルエンドのインピーダンスという関係となっています。
ここで、差動インピーダンス100Ωに対応した設計仕様の具体例を紹介します。
高速伝送における要求仕様が差動インピーダンス100Ωのみであった場合、コモンモード・インピーダンスを任意に選べますので、設計仕様としてはいくつもあります。
差動インピーダンスが一定ならば、コモンモード・インピーダンスが高いほど、線幅・間隙ともに狭くなります。
ここでは、前スライドで紹介した3種類の配線仕様の高速伝送で重要な反射特性を測定した実測結果をご紹介致します。
結果はミックスモードSパラメーターの反射電圧比であるSdd11で示します。
3種類の配線の反射を比べても差はほとんどありません。
コネクタ接合部,結合の大きい配線(Aの仕様)の線間隙が離れた部分を含めて差動インピダンスの整合がなされていれば、配線仕様の違いは反射量にほとんど影響を与えません。
※Sパラメーターについては伝送損失のスライドで簡単に説明しています。
同じく3種類の配線仕様による透過特性の実測結果を御紹介致します。
結果はミックスモードSパラメーターの透過電圧比であるSdd21で示します。
配線仕様の違いが大きく透過特性に影響は与えませんが、ペア線間の結合が大きい“A”の仕様が若干ですが減衰が大きくなっています。
“A”は配線幅が細く、後ほど伝送損失で説明する導体損失が多い為と考えられます。
ビアスタブの影響について御説明致します。
スライドに2つの図があります。高速信号はAからBに伝送されるとします。
高速信号の伝達経路は紫色の実線で示しており、高速信号を伝達する配線層選択の違いより、赤色の部分の長さに差が生じています。
この赤色の部分がビアスタブと呼ばれるもので、ビアの先がオープンである事から、オープンスタブとなっています。
スタブ長の違いが高速信号に与える影響を、確認します。
実測のモデルは、差動インピーダンスを100Ωに整合した、板厚1.6mmのペア配線にSMAコネクタの搭載する方向を変える事でスタブ長に差を生じさせたものです。( 配線がない層にSMAを実装した場合と比較し、配線がある層にSMAを実装した場合、プリント配線板の板厚分スタブが長くなります)このスライドでは、TDRによる差動インピーダンスを示しています。
400~500nsec辺りで生じている乱れが、SMAコネクタ部分によるものです。
スタブ長が短い青色の特性インピーダンスは、基準である100Ωに近い95Ω程度ですが、スタブ長の長い赤色の特性インピーダンスは、72Ωにまで低下してしまっています。
さて、前スライドではスタブ長の違いが高速信号を伝送する上で重要となる特性インピーダンスに与える影響を確認しましたが、高速信号の伝送特性への影響を確認します。
このスライドでは、反射特性(Sdd11)への影響、次スライドでは透過特性への影響を示します。(ネットワークアナライザーでの実測結果です)
高速伝送で必要とされる領域である8.5Gbps付近での反射特性を比較すると、スタブ長が長いモデルの反射は-3dB、短いモデルは-16dBでした。-3dBは、配線に入力した電圧の70%の電圧が、入力ポートに反射している事を表し、-16dBは約16%が反射している事を表します。
今度は8Gbps付近での透過特性(Sdd21)を比較します。
スタブ長が長いモデルの透過量は、-7.3dB、短いモデルは-4.5dBでした。
-7.3dBは、配線に入力した電圧の43%の電圧が、出力ポートに透過している事をあらわし、-4.5dBは約60%が透過している事を表します。
また、赤色の結果が、横軸(周波数)に対して波打っているのは、SMA実装部分でのインピーダンスミスマッチに起因した定在波の影響によるものです。
反射量、透過量の実測結果を見比べて、ビアスタブの影響は、高速信号の主成分である高周波になればなるほど、顕著になる事が確認できました。
(逆に言い換えると、低周波領域では、影響を無視できる)
高速伝送する信号の周波数、高調波の次数を考慮し、プリント配線板全体のバランスを考えビアスタブによる影響と対処方法を検討する必要があります。
ここでは、弊社(アイカ工業)がどの様に高速伝送で重要な要素である特性インピーダンスの保証を行っているかを説明します。
特性インピーダンスの保証は、製品外設けた特性インピーダンス測定用の配線(テストクーポン)を実測する事で行います。
テストクーポンは、特性インピーダンス指定配線と同等の仕様の配線を、特性インピーダンス指定配線が配線される信号線層に配線します。
(多数の配線層に様々な仕様の特性インピーダンス指定配線がある場合、テストクーポンの配線も多くなります)
特性インピーダンスの測定は、TDRを用います。
特性インピーダンスの実測についてです。
TDRは、高速信号に含まれている急峻な立上がりを持つステップパルスを発生させ、ケーブルを介してテストクーポンに入力し、その反射の大きさを見る事で配線の特性インピーダンスを測定します。横軸は時間で表されますが、これは測定しているポイントまでの往復時間(反射なので往復)となるので、時間から配線のどの部分のインピーダンスがいくつであるかを確認する事もできます。
配線の入力部はプロービングによるインピーダンスミスマッチが発生し、また、プローブ部等の共振により乱れが生じるので、少し長めの配線を設け、安定した時間(ポイント)のインピーダンスを測定します。
ここからは、高速信号における重要な要素である伝送損失についてです。
伝送損失の要因ですが、反射による透過量の減衰が無いと仮定すると
①配線の導体で発生する導体損失(αc)
②誘電体で発生する誘電損失(αd)
③放射で損失する放射損失(αr)
の3つの和となります。
一般的に電圧比で表されるので、対数で表す場合は、スライドのような
α=20LOG10(S21)= 20LOG10(V2/V1)
となります。
高速信号においては、伝送損失量が分かれば、伝送線路の入力した電圧が、伝送後に何Vになるか、見積ることができます。
差動伝送における伝送損失は、Sdd21をデシベル表示したものが一般的になってきました。これは、差動配線の4つの端(ポート)にて、ネットワーク特性を求めた後、スライドの計算式に従って求めることができます。
差動配線による信号伝送は一般的にオッドモードですから、Sdd21を良し悪しの尺度とするのが妥当と考えられます。
高速伝送で重要な伝送損失は、基板の材料によって大きく差が生じます。
ここでは、材料特性と伝送損失の関係を実測結果を元に説明します。
絶縁層厚みを約0.2mmとし、各々の材料で、特性インピーダンス50Ωの配線を作成し、伝送損失をS21として測定しました。
材料の有する特性の違いは、主に比誘電率(εr),誘電正接(tanδ)です。
(細かくは、各特性に対する周波数依存性や温度依存性等もあります)絶縁層厚みを一定としている事から、同じ特性インピーダンス50Ωを得る為に比誘電率の低い材料程配線幅が若干太くなります。この影響から各配線の導体損失に少し影響を与えます。(配線が太くなる低誘電率の配線の方が導体損失が少なくなる)誘電損失は、εrの平方根とtanδの積に比例致します。
したがって誘電損失は、εr とtanδが低い値を示す材料で作成した基板が、より低損失になると言えます。( εrが平方根である事からεrよりtanδが支配的です)
スライドの実測比較結果を見てもその傾向は明確です。
高速伝送する信号の周波数、高調波の次数、配線の長さを考慮して使用する材料を選定する事が重要です。
リターンパスについてです。
ここでいうリターンパスは、信号が変化しないDCの戻り電流ではなく、高速信号変化時のACを対象としたものです。
高速信号変化時のリターンパスは、誘導作用により、配線直下直近のGNDプレーンまたは電源プレーンとなります。
一方、配線は部品配置の都合,他配線との干渉等でviaにより配線層を変化させる場合が多々あります。その場合、リターンパスの層も変化するのですが、信号via同様にリターンパス用のviaが無いとリターンパス不連続によりコモンモードノイズが発生し、高速信号の品質にも多大な影響を及ぼします。
対処法として高速信号via近辺にGND_viaを設ける、リターンパス層が電源とGNDであった場合は、高速信号via近傍にコンデンサを配置し、電源とGNDを高周波のみ短絡させ、リターンパスを得るといった方法がある。
このスライドは、前スライドのGND_viaありの場合と無しの場合のS11(反射),S21(透過)を比較したものです。
ピンク矢印は300MHz,900MHz,1.2GHz・・・・であり、これら周波数では透過が小,反射が大となっており、この周波数帯の高速信号がまともに伝送できない状態である事が判ります。
実際の高速な信号波形で確認しました。
高速信号の周波数は300MHzです。
前スライドのSパラメーター測定結果から推測したように、GND_viaが無い仕様では、まともな高速信号波形を伝送できていません。
通常のプリント配線板では、GNDプレーン,電源プレーンがもっと大きくプレーン間の容量結合が強い、配線近傍のICに配置されたパスコンの効果で層間のリターンパスが自然と確保されているといった具合に、この現象はあまり顕在化しません。しかし、シンプルな配線で確認すると、高速信号のリターンパスの重要性はこのように明確に現れます。
前回作成した基板で問題が発生しなかったからといって、次回作成する基板でこの問題が顕在化しないとは限らない為、プリント配線板で高速シリアル伝送を実現する場合、リターンパス確保の必要性は心に留めておく必要があります。
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