技術資料

スルーホールのインピーダンス制御設計手法の開発

1. はじめに

多層基板で高速信号伝送を行う場合、局所的なインピーダンス不連続が信号品質劣化の原因となる。一方、配線密度が高まるにつれてスルーホールを介して層間を接続する必要性が生じてくる。しかし、スルーホールは内層プレーンとのキャパシタンスやリターン経路によるインダクタンス、オープンスタブなどの影響により、インピーダンス不連続点となり、反射や定在波が発生する。これらを抑制するため、スルーホールのキャパシタンス、インダクタンスを定量的に算出しインピーダンス制御する設計手法の確立を目指し、検討を行った。

2. 設計仕様

信号用スルーホールの近傍にグラウンドスルーホールを配置する手法をとった。シングルエンドスルーホールは、信号用スルーホールの両端にグラウンドスルーホール2個を左右対称で一直線上に配置した。また、差動スルーホールについては、信号用差動ペアスルーホールの両端にグラウンドスルーホール2個を左右対称で一直線上に配置した。この時の条件として、計算の簡略化のためグラウンドスルーホールは信号用スルーホールと同径で、かつそれぞれのスルーホール間のピッチは同じとしている。以下はシングルエンドのスルーホールに関して述べる。スルーホールの構造図として層数が4層の場合を例とし、図1にその構造を示した。

上記仕様において、16層板までのテスト基板を作成した。TDR測定および回路シミュレーションで確認を行い、スルーホールのキャパシタンスおよびインダクタンスを見積り、等価回路による計算式を作成した

 

図1. スルーホールの構造図 (4層)

3. 計算のアルゴリズム

3.1 スルーホールのモデル化

設計したスルーホールを等価回路モデルで置き換えた。層数が4層の場合における、シングルエンドスルーホールの等価回路モデルを図2に示す。また、この等価回路モデルに基づきスルーホールのインピーダンス計算式を作成した。

 

図2. シングルエンドスルーホール等価回路 (4層)

 

3.2 インダクタンス、キャパシタンス、インピーダンスの算出法方法

インダクタンス(L)は平行3線の計算(式1)を用い、信号用スルーホールとグラウンドスルーホール間における中心間距離(D)及び半径(a)により算出した。

キャパシタンス(C)は平行3線の計算(式2)を用い、各スルーホール間に生じるキャパシタンス(C1) を算出した。さらに、同軸の計算(式3)より、スルーホールと内層プレーン間に生じるキャパシタンス (C2)を算出した。ここで、r は内層クリアランス半径を示し、ε は FR-4 の誘電率を使用した。ただし、キャパシタンス(C)はスルーホール内で均一ではないため、それぞれ補正項を持たせることを前提に計算式を作成し、後に述べる TDR測定結果により定量化することとした。

 

 

スルーホールのインピーダンス(ZTH)は以下(式4)の通り、信号通過分のLとスルーホール全体のCから求めることができる。 23B-05

 

図3. インダクタンス及びキャパシタンス

4. 結果と考察

4.1 TDR および S パラメータ測定法での測定結果

始めに、図3に示した構造で作成したシングルエンドスルーホールのTDR測定行った。例として内層プレーン層を4層有する8層基板において、スルーホール中心間距離が1mmでスルーホール径の異なる2種類(0.15mm,0.55mm)のパターンを比較するとスルーホール部分のインピーダンスが 53Ωと37Ωとなることが観測された。

図4. TDR測定法による特性評価

 

図5. S21おける周波数特性

 

またSパラメータ測定により透過係数(S21)を比較すると、スルーホールのインピーダンスが37Ωのパターンは定在波が発生し、大きな減衰量を示すことを確認した。一方で、53Ωのスルーホールはパターンの減衰量と同等であり、信号品質劣化がほとんどないことが分かった。以上からスルーホール自体の減衰はほとんど無く、インピーダンスの不整合が信号品質劣化の支配的要因であり、インピーダンス整合することにより改善できることを確認した。

 

4.2 モデルの妥当性検証

TDR法により測定したインピーダンスをもとに、計算で求めたCに長さの補正項を追加し、その際の等価回路モデルのS11と、実測のS11測定結果との比較を行った。その結果、等価回路モデルから得たS11と実測の結果がほぼ一致することから今回の計算式および補正から求めたL、Cの値は実測に近い値と考えることができる。また、4GHz におけるS11より算出したインピーダンスとTDR法により観測したインピーダンスが近似していることから、TDR測定法であっても、4GHzのインピーダンス測定ができていると考えられる。

図5. S11における実測値と計算値の比較

5. まとめ

本文に述べた構造において、スルーホールのインダクタンス、キャパシタンスを算出することで、スルーホールのインピーダンスを制御することが可能であることを示した。従来のスルーホールでは、リターン電流経路の明確性に欠けることから、インダクタンス、キャパシタンスを定量的に算出することができない。その結果、スルーホールはインピーダンスの不連続点となり伝送信号品質を劣化させる原因となってしまう。

今回用いた手法によりスルーホールのインピーダンスをパターンのインピーダンスに整合することにより、高周波特性が良い高価な材料や特殊部品を使用することなく信号品質を確保することができ、また、スルーホールを介した高密度実装が実現できるようになる

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